「言語・認識・表現」第25回年次研究会

2023年3月25日土曜 10:25~16:30 オンライン開催 Zoom

10:25     研究会主査          開会の辞

宮崎正弘              ラングテック

10:30~11:30

関口存男の意味形態論について

佐良木 昌           明治大学

関口が言う意味の世界とは、意味形態のことでもなく文法形態が表す意味の領域のことでもない。「再帰的表現とExistenz」(『ドイツ語学講話』二五一頁~三一五頁)に拠れば、「過渡期」としての「現在の自我」あるいは「現実の自我」と「理想」としての「来るべき自我」(同上、二六三頁)との衝突あるいは結合という観点(同上、二六四頁)から人間意識を把握するならば、人間という存在は、静的ではなく動的な存在である。人間意識の動的構造を、方向として、動きとして、したがって時間として、可能性として、発展として把握した概念が、「存在 Exsistenz」(同上、二八三頁)であると言う。換言すれば、存在の動的把握、「存在の動相」である。したがって「動存」とは、「いきがかり・交渉・関係・態姿・態勢・局面そのもの」と言われ、「吾人自身の人間現象」と言われるのである。これらは、動的に捉えられた意識を満たす内容であるといいうるであろう。意識内容は、感情・直観・表象・目的や義務などの諸形式で存在しており、これらは表現主体の実存的内面と云いうる。表現行為主体における体験および経験の累積の場であり、価値判断の場所であり、理性と感性とが拠って来たる人格的地盤でもあるといってよい。約言すれば、関口の云う意味の世界とは、実存Exsistenzである。この動存を、関口は意味の世界と捉えている。

11:30~12: 30

しずかに霧はながれ—–心象風景の持つ訴求力

新田義彦              言語研究アソシエーション

俳句をはじめ詩文においては,作者の心情を描写する際に風景描写がしばしば利用される.直截に「思う」「感じる.などの動詞とその目的語(句)により描写したのでは,余情,含み,示唆,などの潤いが欠落するからであろう.

本論文のタイトルに採用した語句「しずかに霧はながれ」は.作詞:A.マシストフ、作曲:I.A.シャトロフ、日本語詞:笹谷榮一郎の「満州の丘に立て」という詩文の冒頭部分である.この詩は以下のように叙述する.<引用始め>

1 静かに霧は流れ

  雲の彼方に 月は輝きぬ

  白く光る十字架

  安らかに勇士は 丘に眠りぬ

    面影わすれじ 永久(とわ)に

    勝利の誓い はたさん

    やがて平和は来たりぬ

    我等が上に(繰り返す)

2 静かに霧は流れ

  雲の彼方に 月は輝きぬ

  白く光る十字架

  安らかに勇士は 丘に眠りぬ

  なつかし母 若き妻 嘆き悲しむ

  勇士を偲び惜しむ 全ロシア

  静かに霧は流れ

  雲の彼方に 月は輝きぬ

<引用終わり>

「静かに霧が流れ,雲の彼方で月が輝いている」という心象風景の描写により,非戦の思い,戦争の悲劇を批判する心情が重く静かに語られている.直截に批判の言葉を述べるよりも批判力は強力であり重量がある.言うまでもなくこの心象風景描写は限りなく実写に近いリアリティを持っている.この戦争を惹起した国家の罪科については触れぬことにする.

休憩

12: 3013:15

13:15~14:15

日本語文における省略された文要素の復元―文脈理解型の高品質日英翻訳を目指して―

宮崎正弘              ラングテック

日本語では文脈・状況から復元可能な文要素は主語や目的語などの文の主要素であっても省略できる。これに対して、英語では主語のない命令文以外の文の主要素は省略できないため、和文英訳する場合、省略された文要素を復元して英文に翻訳する必要がある。

単独の文では、一般に前後の文から得られる文脈情報がないため、省略された文要素の復元は困難であるが、複数の節で構成される文では、節を構成する単文を疑似的な文とみなすことにより生じる文間文脈を利用した省略要素の復元が考えられる。ここでは、白井諭の「日本語の階層的認識構造と係り受け解析」の考え方に着目し、南不二男による従属句(従属節に相当)の3段階の分類を4段階に拡張した分類を用いた省略要素の復元とその有効性について論じる。

複数の文の文脈を利用した省略要素の復元では、三上章の主題の略題についての考察を基に、「~は」で表される主題が文の境界を越えてどの文まで勢力を及ぼすかを決定し、焦点-主題連鎖や単語間の意味的結束性(単語連想機能など)に基づき主題の転換を検出する方法とその有効性について論じる。

14:15~15:15

日本語の[関係性指標]の[て]に対する英語の対応に関して

岩垣守彦              言語研究アソシエーション

言語情報は動詞と名詞を核とする{単位情報}から成っています.情報が複数ある場合は[関係性指標]でつなぎます.どういう[関係性指標]を使うかは{単位情報}と次の{単位情報}の関係によって決まります.この観点から見ると,日本語の[関係性指標]の[て]は「動作・状態」の次に「動作・状態」があることを示す便利な言葉ですが,その便利さゆえに,日本語を英語に等価変換するときには,前後の動作・状態の関係を考えなければなりません.実際に変換するときには特に意識していないのですが,結果的には一定のルールに基づいて変換しているのではないか,言い換えれば,変換のルール化が可能かということを確かめてみたくなり.実例をいくつか纏めてみました.

休憩

15: 1515:30

15:30~16:30

複文と結合価―日本語の場合―

青山文啓              桜美林大学大学院

一つの文から複数の命題が推論できなければ,接続表現(活用形,形式名詞,接続助詞など)により二つの用言が結ばれていたとしても〈複文〉とは呼べない。日本語の文はさまざまな種類の句にあふれ,命題を形成しない場合が数多く存在するからである。命題の基礎を形成する結合価への関心は単文の限界を定め,複文研究を始めるために欠かせない一歩となるはずである。

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